はじめに

最新号
        

                   『時を待つ』

ムビラ職人ガリカイ氏が私に言いました。
 「本当は病院なんかいらないんだよ。病気になったら、スピリットが回復するのを待てば病気は治る。でも、最近は忙しいから、薬ですぐ治さなくてはならないから、病院で薬をもらうんだ。」
 科学的な医学に慣れ親しんだ私には、新鮮な言葉でした。
 スピリット(魂)のバランスが崩れると病気になり、そのバランスが正しく保たれれば病気から回復する。崩れたスピリットがバランスを直すまで時間は必要なのです。人体は小宇宙。自らバランスをとる世界なのでしょう。
 現代社会で私たちはいかに短時間で、無駄なく、合理的に多くを成すかという事に努力します。私たちは、時間を支配しようとしている。でも、私は気がつきました。私たちが支配したと思っている時間は、空っぽなのだということを。
 植物に人工的に環境に条件を整えれば、実は付きます。でも、そうしてできたものは、旬の実のおいしさにはかなわない。人の体も、骨折したり、組織が損傷したりしても、その組織にはその組織の再生する速さがあります。安静にし、組織の回復を待つしか治療はありません。
 人が無理やり時を曲げて得たと思っているものは、スカスカなんだと私は気が付いたのです。

 この世界には秩序があるのでしょう。運命という秩序、使命という秩序、大自然のバランス。目に見えない精神世界の秩序です。
 私たちは、秩序に従って時を経ていくことを恐れてはいけないと思うのです。
 作り上げたものがすぐにはうまく行かないとしても、成果がゆっくりだとしても、自分に正直だと思われ、自分の使命だと信じられるものならば、勇気をもって時を待たなければいけないと思うのです。
 現代、時を経ることは美徳ではないのかもしれません。でも、私は時に老人を見ていて、純粋に真面目に自分の責任を全うし終えた、無駄なものを削ぎ落としたような美しさを感じます。

 時というものは、人が支配できるものではなく、時は人を見守っているもののようです。
 時に包まれ、時を待つことを恐れない人でありたい。
  


#