はじめに

最新号

                 『生命力のアート』
 
近所の古本屋に出かけたら、世界美術全集に出会いました。1960年代に出版された大型版で、厚さも5cm近い立派な本がなんと一冊300円の安さです。全部買ってもよいと、品定めを始めました。しかし、途中で気乗りしなくなり、結局購入したのは、アフリカ美術と原始美術の2冊のみでした。正式に美術を勉強したことはないので美術史もよく知りませんが、美術館で絵を見るのが好きな子供で、ヨーロッパに絵を見たい一心で何度も行きました。かつてあれほど感動した、ルネサンスもロココも印象派も、今は何か薄っぺららく空々しく見えてしまうのです。インド美術でさえ、人のエゴを感じました。かつてはあんなに惹かれたのに、今はどうしてと不思議な気持ちです。世界の美術を見渡したあげく、私が心つかまれたのはやはりアフリカなのです。
 南部アフリカの岩絵は自由で躍動的で、ナイジェリアなどの青銅器は強調された体型や顔の一部などかわいらしく、そして特に私が惹かれるのは仮面や椅子、太鼓などの木製彫刻でした。ジンバブエの首都ハラレに質の良いアフリカ各国の美術品を置くお土産屋がありました。カメルーンやナイジェリアなどの怪物のような仮面に私は歓喜し、友人たちは「気持ち悪い」とよく言いました。人を驚かすような、抽象的な表現そのものに惹かれているのではないのです。それらの仮面は俗世とはかけ離れた、近寄りがたい神聖な強いエネルギーを発しているのです。それは生命力というのでしょう。自然の中、生き物の中、この世のすべてのものに宿る生命の力に私は惹かれてしまう。
 世界美術全集を見渡した後、自分が惹かれるアートというものの姿が確認できました。それは人の中にある理屈なき生きる力、巡る魂、生命エネルギーです。ヨーロッパの美術は人為的で、人のエゴが見え、理屈、理由で塗り固められているように見えてしまいます。私は、根源的な直接的な生命力のあるものに惹かれ、自分もそういうものを表現していきたいと思うのです。それが私の描き、奏でる原動力なのでしょう。 
         


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