はじめに

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               『クムーシャ(故郷)』

 
ジンバブエの首都ハラレに住むムビラ職人が、クムーシャ(生まれ故郷)に帰って、農業をしながらムビラを作って行きたいと言いました。そんなムビラ職人に何人も会いました。
 ある時ムビラ職人ジョナとともに、故郷モンドロにいきました。
 ジンバブエの伝統的な村では、草原が広がる大地に、ポツンポツンと丸くと土塀で囲った家があります。広々とした畑に囲まれ、とうもろこしや野菜たちが良く実っています。井戸の水は少し濁っていますが、ハラレの消毒くさい水道水ではなく、自然の水の味がします。近くの森から薪を拾って、家ではいつも囲炉裏に火がともっています。そこでお湯を沸かし、肉を燻製にしています。牛もヤギもみんな草原の草を食べ、ゆったり歩いています。村の肉屋はハラレよりずっと安く新鮮な肉を売っていました。村では、物々交換も行われていて、金銭価値がすべてではありません。ジョナの一家の土地はずっと広がっています。お父さんの家から3キロも離れた地に新しい家を作るとジョナはいいます。それも祖先かれ引き継いだ地で、ジョナが買ったわけではありません。
 ハラレでは、食べ物はスーパーや路上で買い、肉も冷凍であったりします。頻発する停電で、庭で焚き火をして料理をします。その薪も路上で家具の残骸などを買います。水は、水道代を払い消毒くさいです。金銭価値が絶対な都会で、酷いインフレの物価はどんどん高騰します。
 モンドロで、広がる草原と青空の下ムビラの音を聞きながら、私の気持ちは楽になっていきました。ハラレの激しい貨幣経済に、私も疲れていたのでしょう。
 「クムーシャ(田舎)は豊かで生きることは楽だ。ハラレでは貧しく難しい」ジョナは言います。
 私は、以前ムビラ職人がクムーシャでの暮らしを選ぶことは、ハラレのビジネスチャンスからの逃避のように思えていました。しかし、今は彼らがムビラ職人だからこそ、クムーシャで暮らしたいと思うのだと、理解できます。
 彼らは、自然の恵みを受け、代々形あるものもないものも受け継ぎ、生きていくのです。ムビラは、先祖が与えてくれたものに感謝し、それを子供たちに弾ぐ大切さを支える楽器です。それは人として、とても単純で楽な生き方だと思いました。楽に生きると行くことは、逃げているわけでも怠けているわけでもないんです。人間らしく健康的に生きる生き方につながるのでしょう。
 私はハラレに帰りました。箱のような小さな同じ形をした家が積み木のように並び、道路わきにゴミが溢れ臭っていました。そのどんよりとした空気にムビラの音も澱みます。
 ハラレの人は、毎月、毎週末、クムーシャに帰ります。私もクムーシャに帰りたくなりました。
         


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